「X FORGED」はプロのニーズから生まれた
―キャロウェイといえば、「S2H2」や「X-14」などゴルフ史に残る名器に代表されるように、昔から誰もが使えるやさしいアイアンを作るメーカーというイメージがあります。最新の「パラダイムAi SMOKE」にしてもアイアンブランドの「APEX」にしても高機能がウリです。その中で軟鉄鍛造の「X FORGEDアイアン」はどう位置づけられていますか。
茂貫 軟鉄鍛造アイアンとしてはそれ以前にノッチウェイティングシステムを採用した「X TOURアイアン」がありましたが、ロジャー・クリーブランドの設計によるオーソドックスなキャビティの「X FORGEDアイアン」を初めて出したのは2007年です。
―割と最近のことですね。
茂貫 ロジャーがキャロウェイの開発チームに参加したのは1996年ですが、彼が得意とする軟鉄鍛造ワンピースアイアンを手がけることはなかなかできませんでした。なぜならその当時のキャロウェイが求めていたのはプロからアマチュアまで誰でも使えるクラブであり、プロに特化したクラブは必要ないといわれていたからです。
―その方針が変わってゴーサインが出たのはどうしてですか。
茂貫 プロが求めるものを作ってこなかったことで、契約プロを増やせなくなってきたからです。他社からキャロウェイファミリーに入る寸前のところで、アイアンに少し課題があって“振られて”しまったこともありました。
―プロに使ってもらうために軟鉄鍛造アイアンを作ったわけですね。そして「X FORGEDアイアン」は2007、2009、2011、2013、2018、2021、今回の2024年とモデルチェンジを重ねてきたわけですが、その間に新たなフラッグシップとして「APEX」ブランドが立ち上がりました。同じツアーアイアンのカテゴリーで「X FORGED」と「APEX PRO」が社内競合しています。
茂貫 グローバルブランドの「APEX」に対して、日本を中心とするアジアでは「X FORGED」というブランドやシンプルな軟鉄鍛造アイアンに親和性があります。「APEX」がパフォーマンス重視で複合化していく一方、日本ツアーではワンピースの軟鉄鍛造アイアンにニーズがあります。
同じ軟鉄鍛造でも複合と一枚物では打感が違う
―ワンピースの軟鉄アイアンと軟鉄ボディ複合アイアンでいったい何が違いますか。「X FORGED CBアイアン」も「APEX PROアイアン」も打ちましたが打感はとてもよかったですよ。
茂貫 気付かない人は、ああこれいいねっていいます。グローバルで企画された「X FORGED CBアイアン」は日本企画の「X FORGEDアイアン」とは別モノと考えてもらったほうがいいかもしれません。軟鉄鍛造ボディにタングステンがついて、フェースはステンレスです。ツアーチューンドフェースといってフェース自体をマッスルバックみたいな形状にしているので、一枚物の軟鉄鍛造アイアンのフィーリングと似ていますが、敏感な人はなにかがちょっと違うと感じるし、人によっては大分違うともいいます。分かる人には分かるのでプロにはそれほど広まらず、やっぱり一枚物の軟鉄鍛造をなくしてはいけないという話になりました。
―それで今回の「X FORGEDアイアン」はワンピースに戻ったわけですね。
茂貫 今回の「X FORGEDアイアン」と「X FORGED STARアイアン」はアメリカ本社の企画ではなく、日本のプロからのフィードバックをメインに日本で企画した商品。日本人やアジア人のきめ細かな感覚を大事にして、形状や打感などディテールにこだわって作り上げた久しぶりの本流のアイアンです。
新「X FORGED」はプロが求める抜けのよさにこだわった
―それでは「X FORGEDアイアン」と「X FORGED STARアイアン」の特徴を教えてください。
茂貫 デザインを決める上で意識したのはツアーのフィードバックと市場で人気のあるアイアンです。形状を含めてかなり研究させてもらいました。
―最近の軟鉄鍛造アイアンのトレンドは?
茂貫 昔の国産のアイアンはヒールの高い和顔がほとんどでしたが、主戦場が米国や欧州のツアーになると洋顔が多くなってきます。日本の若い選手も昔ながらのヒールの高いアイアンで育ってきていない、トレンドとしては洋顔が多い印象です。あとはどのメーカーも面取りをしたり、ディティールにものすごくこだわって作っていますね。
―プロは顔以外にアイアンのどの部分を気にしますか。
茂貫 やはり抜けですね。「JAWS RAWウェッジ」とか「JAWS FORGEDウェッジ」がリーディングエッジの面取りで抜け感すごくよくなったので、アイアンにも採用したら、ソールの抜け感とか当たり方がむちゃくちゃいいといわれました。「X FORGEDアイアン」がとくに易しく作ろうとしたわけではないのに、選手が易しいといってくれるのは意外でしたね。おそらくいままでなら最下点がブレて刺さっていた場面でも、面取りのおかげですっと滑って抜けるところを易しいと表現しているのでしょう。
―トレーリングエッジも面取りしてあるのでラフからも打ちやすそうです。
茂貫 トライレベルソールと呼んでいますが、面取りがあるとラフが深くても絡まずに抜けてくれます。フェースを開かなくてもふつうに打てるので右にすっぽ抜けるミスがなくなります。アメリカで活躍している西村優菜もこのソールを気に入って、どんな芝質でもプレーしやすいと話してくれています。
バックフェースのデザインは打感を追求した結果
―バックフェースのデザインはかっこいいけれど、どこか懐かしさも感じます。
茂貫 トゥ・ヒールにウエイトを分散するノッチウエイティングにもよさはありますが、フィーリングをよくするためには肉厚をなるべく真ん中に寄せたい。でもそういうデザインは出尽くしているので何かに似ていると思われるのは仕方がないところです。ただ、正統派の軟鉄鍛造アイアンは長く使うクラブです。そのため、バッジは一切使わず、シンプルで飽きの来ないデザインにしました。
―「X FORGED STARアイアン」のヘッドは「X FORGEDアイアン」よりもひとまわり大きくロフトも1番手立っていますがかっこよく見えます。
茂貫 ある程度やさしく作りたかったので、トップブレードも少し厚くしていますが、フェース面の輪郭に面取りをして小さく薄く見せるように作り込んでいます。「X FORGED STAR」なら、距離が出なくなってスコアを崩さないために妥協して複合ヘッドを使っているような人たちにも、もう一度軟鉄鍛造アイアンのフィーリングを楽しんでもらえるはずです。
日本ツアーのフィードバックから海外で通用するアイアンが誕生
―女子の開幕戦でも早速「X FORGED STAR」をバッグに入れているプロを見かけました。
茂貫 プロトタイプを試してもらったとき、見た目はシュッとしてかっこいいけれど打ってみるときっちりやさしいしソールの抜けもいいと高評価でした。
―海外のプロも使っているようですが、日本企画のアイアンはどう評価されていますか。
茂貫 USPGA、USLPGA、DPワールドツアーのツアーレップを通して、正に求めていたアイアンはこれだという応えが返ってきました。去年、メジャーの全米女子プロで勝ったイン・ルオニンが「X FORGEDアイアン」にスイッチしているし、「APEXアイアン」を使っていたローズ・チャンもタテ距離が合うといって「X FORGED STARアイアン」に変えてくれました。欧州ツアーでも「X FORGEDアイアン」を使っている選手がいます。日本とアジアで受け入れてもらえるようにこだわって作った物が、ふたを開けてみたら世界で評価されるという予想外で面白い結果になりました。
―軟鉄鍛造が大好きな日本のアマチュアゴルファーに評価されるのも間違いなさそうです。